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ゴブラン織りの歴史
ゴブラン・フランドルの織物 ~ 歴史物語 ~
『フランダースの犬』で有名な、ヨーロッパ、フランドル地方は、北フランスからベルギーにかけて広がり、現在でも織物産業が盛んです。なんと1,000年以上もの伝統があります。 フランドル地方とタペストリー、ゴブラン織りの歴史を紐解いてみましょう。
ヨーロッパ・織物文化の発祥
9世紀(西暦800年)、日本では平安時代、カール大帝が大フランク王国を建設したころから、ヨーロッパ文化の中心地は地中海沿岸からロワール川とライン川の間に移りました。
現在のフランス北東部、ベルギー、オランダ南部、ドイツ西北部のあたりです。 特に北フランス、ベルギー北部、オランダ西南部にまたがるフランドル伯領では、既にこの地方に住むフリース人によるフリース織の名前で知られる毛織物産業も盛んでした。
ヨーロッパ中の商人が、毛織物、タペストリー(タペストリー:織物の図柄入り壁掛け。タペストリー自体は、古代エジプト、古代オリエントから存在していました。ルネサンス期に油絵の技法が確立するまでは、主にフレスコ画とタペストリーによって、視覚イメージを伝えていました。)、レース、武具、金銀細工を求めて訪れています。たいそう賑わっていたことでしょう。 この時期の最も重要な作品として、『バイユーのタペストリー』が挙げられます。
1066年の、ノルマン・コンクエスト(ノルマンディー公兼イングランド王ウィリアム1世)によるイングランド征服の物語が70mもの長さに渡って表されています。 当時の服装、武器、軍船、戦闘方法などが細かく織られ、歴史的史料としても大変貴重なものです。
※正確には、バイユーのタペストリーは織物ではなく、刺繍となります。
王侯貴族が愛したタペストリー
14世紀の初頭から、竪機(たてばた)職人が現れ、精緻なタペストリーが織られるようになりました。 タペストリー専門の下絵師の他に、ラファエロ、ルーベンス、ブーシェなど名だたる画家たちもこぞってタペストリーの下絵を描きました。
15世紀末、フランドル地方のオーデナルド市では、タペストリー職人が、14,000人も存在していたということからも、いかにタペストリーが王侯貴族に愛されていたということが分かります。
6枚組のタペストリー。人間の五感を表す連作と、謎を秘めた存在の『我が唯一の望み』。
様々な解釈が存在しますが、現在のところ、「愛」、「理解」、「婚姻」などを表していると言われています。 緻密な千花模様(ミル・フルール)、また貴婦人の衣装の複雑な柄など、職人の高度な技術が伺えます。
フランドル・タペストリーの精華
16世紀頃になりますと、染色・織物技術の発達により、糸の色数、濃淡の段階が豊富になり、繊細な表現が可能になりました。
フランドルのタペストリー産業は、最盛期を迎えます。 ヨーロッパではルネサンス期を迎えており、ヴェルデールと呼ばれる様式で、緑葉樹を描いたタペストリーが人気を博しました。その一つが、『オーデナルド』です。 (オーデナルドは、フランドル地方の一都市です。現在でも尚、オーデナルドの郊外では、こういった深い森を見ることができます)
フランス・ゴブラン織の誕生
17世紀、フランスではアンリ二世、ルイ十四世の治下、国策としてタペストリー産業の振興のため、染色職人であったゴブラン家の工房跡地に、「王立ゴブラン工場」を設立しました。
画家シャルル・ルブランの監督の下、多くの優れた画家にタペストリーの下絵を描かせました。全ヨーロッパ各国に輸出され、これ以降、ゴブランといえば、タペストリーの総称として使われるようになりました。
フランソワ・ブーシェ(1703-1770)は、ロココを代表する画家であり、伝統的なテーマを、牧歌的にそして官能的に描いています。 肖像画、神話画を得意とし、特に彼のパトロンであった《ポンパドゥール夫人の肖像》など、当時の華やかな王宮文化を描いています。
タペストリーが興隆したのは、持ち運び自由な形状にあります。重いテンペラや油絵と違って、筒状に丸め、気軽に架け替えが可能なため、王侯貴族たちは、別荘や屋敷で楽しむことができました。
また、石造りのヨーロッパの城館において、冬の寒さをしのぐため、厚手の織物を壁に掛けるという実用的な一面もあります。 タペストリーは、アートでもあり、日用品でもあります。 保管するのにスペースを取らず、架け替えが可能な点では、狭小な日本の住宅にもぴったりなのではないでしょうか。
新たな表現 現代のタペストリー
19世紀、ヨーロッパでは絶対王政崩壊し、王侯貴族のためのタペストリー産業は廃れていきましたが、新興のブルジョワ、富裕階級には愛され続けました。 20世紀になると、ピカソ、ミロ、レジェ、コルビジュエなどがタペストリーを手掛けています。 また、モネ、ゴッホ、ルノワール、ミュシャなど近代絵画の巨匠たちの作品がタペストリーに織られ、人気を博しています。
クラシックなイメージのタペストリーですが、近年では、モダンでグラフィカルな作品も織られ、様々なライフスタイルに対応しています。現代アートのような一点は、シンプルで辛口なインテリアにも似合います。
タペストリーが興隆したのは、持ち運び自由な形状にあります。重いテンペラや油絵と違って、筒状に丸め、気軽に架け替えが可能なため、王侯貴族たちは、別荘や屋敷で楽しむことができました。
また、石造りのヨーロッパの城館において、冬の寒さをしのぐため、厚手の織物を壁に掛けるという実用的な一面もあります。 タペストリーは、アートでもあり、日用品でもあります。 保管するのにスペースを取らず、架け替えが可能な点では、狭小な日本の住宅にもぴったりなのではないでしょうか。